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驚異的な就職率 [音楽大学]

  私が芸大で仕事をしていた33年間、この大学の就職率、というのは教授会ではおろか、一般に話題にすらのぼったことはほとんどなかったように思う。多分実態はひいき目にみてひとケタ台か、シビアにみればコンマ以下かも知れない。学生たちが自分たちの将来を考えていなかったわけではなく、個々にみれば優秀な学生でも自活することを考えないわけではない。いつか芸大にソニー会長の大賀典雄さんを芸大にお呼びして講演会を持ったことがある。その際、本気か冗談か、「芸大ほど将来の仕事についてまともに考えたことがない大学もみたことない。芸大にも経済学部を置くべきだ」、と言われたそうである。それを伝え聞いた平山郁夫学長はただ一言、「悪い冗談ですね」とコメントしただけだったそうだ。さらにそれを伝え聞いた私の感想は「どっちもどっち」。

 ところで札幌大谷大学。私は最初耳を疑ったのだが、「去年度の音楽科卒業生の就職率は85パーセント」ときかされた。まさかいくらなんでも、と思ったが、実際、職種を問わなければそういう数字なのだそうだ。これは、こういう地方の学生、特に北海道は景気回復の恩恵に一番取り残された地域で、親も、学生も、大学を卒業するだけでも経済的に精一杯であり、卒業したら、ともかく何かの職業に就かなくては困るのだ。音楽家を目指すという希望も経済力なくしては成り立たない、と言うことを、誰もが切実に感じている。当然大学はそれに敏感であり、出来る限りの就職支援を行っている。その意味では先ほどの大賀さんの発言についていうなら、この大学はそれを地でいっている模範大学、ということになりはしないか。

 日本全体でみれば親に経済力があって、30でも40でも親がかりで外国で勉強を続ける、という人は少なくない。それが悪いというわけではないが(皮肉な見方をすれば、ヨーロッパの音楽大学の先生はそれで生活が成り立っているともいえる)私はやはり大学を出れば、自分で自分の生活くらいは何とかすることを考える方が健全なあり方ではないか、とも思う。振り返れば私自身も昔はそういう境遇にあった。その時代は芸大生でも一般にはそれが当たり前だと思っていた。本当にごく例外的に経済力と才能と運に恵まれた人だけが外国留学が出来た時代だったから。でもこれも時代の移り変わりなのだろう。

日本の音楽の水準がよくなることはいいことに違いない。でも世界的レベルでみても、経済力のある国からしか優れた音楽家はでない、と言う現状をどう見たらいいのだろう。(逆に経済力がありすぎる国からもやはりでない、ともいえる)


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コメント 3

K.さん

ドイツの音大の中にも、
日本と同様に、生き残りが話題となる中
勢いのある大学があります。

そこの特徴は、マネージメント科というものを作った事。
入学する条件に『経済学部卒業者』というのがあるのです。

そこの大学の勢いは恐ろしい。
作戦がうまいのです。

故に生徒は集まり、勢いがあつまり、
いい先生があつまり、いいチャンスが集まる。

私が学んだ大学は、300年以上の歴史はありますが、
その若い大学(同じ都市にあるので)に
すっかり勢いをとられてしまいました。

勤務される先生方が「これはまずい」と思われた頃には、
手のつけようがない、勢いの差が生まれていました。

怖いもんです。
だから個人的には『悪い冗談』とは言い切れない現実を、
ドイツのとあるところでは見ている気分。
by K.さん (2007-04-21 02:09) 

klaviermusik-koba

へえ、ドイツもそうなんですか。あそこは全部Uniであれ、Hochschuleであれ、Staatlichで、競争や生き残りとは無関係だと思っていました。歴史、伝統だけではやっていけなくなる時代になったのですね。詳しい話はまたいつか聞かせてください。
by klaviermusik-koba (2007-04-21 09:21) 

makkie60

1970年代芸大卒業時は、教職の求人はロビー掲示板に溢れていました。先生デモ、シカと謂った時代です。今は皆偉いPROF.に成られていますが、ヤハリ実技を諦め、教える事に”身を落とした”と云った気持ちが、ナカナカ消えなかったと聴きます。25年間私立総合大学の音楽部門の講師職に居た折、当時未だ歴史の浅い部門のボスから”兎に角教師を養成して欲しい。その卒業生が母校に生徒を送って呉れる迄待つ!”との言葉が未だに残っています。今は”音楽療法”では結構人気な学校になりました。教員免許も、確かに芸大、桐朋には余り必要ないカモですが、私立音大の学生募集には必需品です。これが10年で更新とかですが、単なる”資格”として持って居る”ペーパー免状”は失効してしまう予定です。一方、医師免許は今迄どおり終身免状のママ・・・今でも芸術を修めるには、一生勉強で、稼ぐなんて下世話な事は言ってはいけない!なんて仰言る方が結構居られます。でも、わが国の私立音大の初年度納入金、授業料の額は一向に止まる処を知らず、又コンサート、特に海外からの”一流”オケオペラのチケット代は増々高騰し続ける感があります。一時は”海外にに行けないから当然”との理由でしたが、航空機会社、座席を厭わなければ、行く方が安いカモ・・・・近頃日本人コンクール入賞者の過半数が海外の音楽学校に小、中、高校から直接入って居る現実も、何か複雑な気がします。今の儘だと、日本の音楽学校これからドーなるんでしょうかネ・・・・単なる杞憂で済めばと思うのですが・・・・店子マッキー
by makkie60 (2007-05-02 19:22) 

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