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早春の日高山地 [小旅行]

 IMG_0026.jpg 
(様似駅に到着したキハ40)             
 夜10時前、列車(といっても単行のディーゼルカーなのだが)が終着駅の苫小牧にさしかかろうとしているときに、携帯が鳴った。「あなたまだ原稿書いてないでしょう、催促の電話がかかったわよ」妻からの連絡。おかしいなあ、締め切りは15日のはずだが、と手帳を確かめたら、やはり10日、とある。でも今日はまだ9日だから明日中になんとかすればいい、と考えた。やれやれ。

 3月中旬とはいえ、札幌市内とその付近はまだ雪に覆われているから、雪に覆われた襟裳岬を見に行くのも悪くないなあ、と日曜日の朝考えた。たいていは地図から想像している風景と実際現地を見るのとではずいぶん印象が違うものだが、今回の小旅行もそうだった。苫小牧から日高本線に乗り換えて、海岸沿いに南下するにつれて、雪はほとんど消えていた。ただ鉄橋を渡る河はどこもまだ凍てついていて、早春、という言葉がぴったりする。札幌の人からあそこは山沿いだから、車で行くのはなかなか大変だよ、ときいていたが、実際はJRのキハ40から見る風景は真っ白い雪に覆われた日高山脈のもと、牧場風景は広がっていて、あちこちに馬が放牧され、その風景が延々と続くのだ。日本ではなかなか見られない、北海道ならではゆったりとした風景である。競走馬の飼育が盛んなところ、とはかねがね聞いていたが、これほど大規模なものだとは思わなかった。終点の様似(サマニ、と読むが昔はアイヌ語ふうにシャマニ、と発音していた)まで約3時間、最新の特急列車もいいが、こういうボロい列車の旅行は何物にもかえがたい醍醐味がある。何か目的があるのではない、ただひたすら列車に乗るだけなのだ。広がる牧場と、海岸すれすれを走るすばらしい風景は、この路線も知られざる観光路線といえる。

 途中静内という駅で20分も停車する。対向列車を待つわけでもないのに、なぜ、と思ったが、私には有り難い長時間停車なのでそのあいだ駅の写真を撮ったりしていた。発車間際になって人々が戻ってくるのを見て、やっと長時間停車の理由がわかった。昼食停車なのだ。みんな駅の立ち食いそば屋などで、昼食をとっている。発車間際に気がついたがもう遅い。ここから先、終点の様似も含めて、食事をとれる機会も場所も皆無なのだ。様似からは連絡のJRバスにゆられることさらに1時間、襟裳岬に着いたものの、これが全く何もないところなのだ。景色はすばらしいが、全く人影もないし、レストランもお茶を飲むところもオフシーズンで日曜にもかかわらず閉店中。何しろ風が強いし、寒い。そこで少し内陸方向に歩いていったら、小さな店があったので、そこでタクシーを呼んでもらい、待つこと10分。襟裳の町までもどって小さな寿司屋を見つけ、やっと昼飯にありついたのがもう4時前。

帰り道、襟裳のバス停からJRバスに乗り込んだら、往きのバスと同じ初老の運転手で、乗客も往きと同じ、私ひとりしかいない。「お客さん、あんななにもないところでおりて、15キロも離れたここまで、いったいとうやってたどり着いたんですか?」 バスの運転手が乗客と雑談をするのは法律で禁止されているのだろうが、ほかに誰もいない気楽さで、よもやま話をしているうちに日のとっぷり暮れた様似駅についた。連絡をしている苫小牧行き最終のディーゼルカーも、たった一人の客である私を乗せて出発した。


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コメント 4

ake_i

>たった一人の客である私を乗せて出発した。

冒頭文から、ココまで読むと
この後、本格的な小説が始まりそうな気がしてきます。
襟裳岬への旅、文章の中に景色が盛りだくさんで行ったような気分です。

竜飛岬のあたりも風邪が強くて、イカを焼いて食べされてくれる露店しかなかったことを思い出しました。津軽海峡冬景色を大声で歌いました♪
愛読者より


by ake_i (2008-03-10 17:05) 

klaviermusik-koba

はい、私は文才がないからここで終わるのです。
by klaviermusik-koba (2008-03-10 23:24) 

イトバク

スバラシイ!私は夏に行きましたから食堂で飯にありつきました。
風の強い日にはみんな手を繋いで岬を目指すと聞いた事が有ります。

昆布採り昆布の路を波に問ふ

寿司の味は如何でしたか?
by イトバク (2008-03-11 08:50) 

klaviermusik-koba

こういうところは苦労してたどり着くところがいいのです。立派な観光バスで行けば楽だけど地の果てまで来た,という実感は湧きません。

寿司の味は値段の割にはイマイチでした。でも札幌から往復10時間もかけていく過程ががいいのです。目的地は2の次。
by klaviermusik-koba (2008-03-11 09:39) 

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