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作曲法を教える [昭和音楽大学]

私のクラスに作曲家志望の男の子が入ってきた。この子を私にわざわざ副科ピアノを割り振った主任の先生には思惑があったにちがいない。この子は作曲の初歩もほとんど知らないし,ピアノもほとんど弾けない。私のクラスに放り込んでおけば作曲もピアノも一緒に教えてくれるに違いない、と踏んだのであろう。

クレメンティの一番易しいハ長調のソナチネの第1楽章をとにもかくにも10日ばかりさらって入試で弾いた、という。ピアノについては教えるパターンがあるから初心者でも私は苦労はしないが、問題は作曲である。当然この大学でも彼の専門の作曲の先生はちゃんといて、そこではまず,3部形式の曲を作ることから始めているらしい。まだ,和声学の知識も対位法の知識もない子なので、何から手をつけるか、ということで、とりあえず作曲の先生は「音楽の形式」から教える,という道を選んだのであろう。私がこの子にピアノの初歩を多少教え込んだってあまり意味はない。

そこでわたしは、現在彼が弾ける曲を使って,曲とはどのようにつくられているか、という基礎を教えることにしたのである。彼に云った。「君は何も考えないでこの曲を弾いているみたいだが、このソナチネには作曲法のお手本がぎっしり詰まっている」。バッハがインヴェンションの冒頭で書き記しているように、「まずいいモティーフを思いつくこと」「そしてそれをどう展開するかを学ぶこと」からバッハのひそみにならって作曲法に取り組ませることにしたのである。

曲の「組み立て方」を知るためにこの曲の4段目、展開部の左手、「ファーミb」このたった二つの音のモティーフから、わずか8小節の展開部が変奏形式でできていることを説明してみせたが、音楽にこんなことがあるか,と彼はびっくりした様子だった。

でも作曲ってどうやって教えるのだろう。「作り方」を教えているうちに,自分のアイデアがどんどん湧いてくるようになるのだろうか。ともあれ、私の作曲の生徒第1号である。そしてこの大学は私が作曲の先生としての能力もあることを認めてくれた最初の大学でもある。この年まで世の中は私をピアノの先生としての能力は認めてくれたけれど、作曲の先生としての能力は認めてくれなかった。人間いくつになっても新しいことを始めるにはばかる事なかれ、だ。
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