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ケルビーニの対位法講座 [Literature]

ケルビーニの作品の名前をあげよ、といわれて即座に幾つか答えられる人は相当な通である。私も3つくらいあげるとネタは尽きる。それもちゃんと曲を聞いたわけではない。しかしケルビーニの「対位法とフーガの講座」はフックスの対位法と並んで歴史的名著である。小鍛冶邦隆さんの邦訳で私たちもそれを勉強することができるようになった。

この対位法の教科書は19世紀の歴代音楽家の教科書ともなった。1対1の初歩から始まり、8声のフーガまで系統的に書かれ、今の学生の対位法教科書としてもその価値は衰えていない。対位法といえば、ピアノの学生にとっては、規則ずくめの無味乾燥な課題がえんえんと続いた挙句、彼らが一番必要とする、フーガの知識まではたどり着くことなく終わってしまう。私の場合もそうで、子供の頃、規則だらけの無味乾燥な課題にほとほと嫌気がさし、これはもういい加減にしておいて自己流でどんどん勝手にフーガを書いた記憶がある。対位法の先生はなぜ自分が一番知識を必要としているフーガを教えてくれないのか、と恨めしく思った。先生はマニュアルに従って対位法を教えているだけだったのだ。

もちろん、この規則を覚えることなしにフーガを書くことはできないであろう。それにしても無駄が多すぎる、という感想はいつも持っていた。大学でもピアノ学生には彼らが日常接しているフーガを題材にもっと「実用対位法」が教えられないものか。彼らは作曲家になるわけではないから、規則はざっとにしておいて、「フーガをどのように作るか」より「フーガはどのように作られているか」を知る方が実際的だと思うがどうか。

ケルビーニの対位法の特徴は、最初こそ規則は厳格だが、進むにつれてだんだん自由度が大きくなり、自分の耳で確かめて不愉快に響かないなら禁制はなるべく少ない方がいい、と言っている。この年まで音楽をやってきた身としては実に同感できる。例題に書かれている模範回答がどれも音楽的で、すばらしい。昔、対位法の模範回答を見て「正しいかもしれんがぜーんぜんオモシロクナーイ」というのとは模範回答でもレベルが違うのだ。最後の8声の対位法「クレド」は傑作である。久しぶりに最後の課題集を幾つか実践してみた。これも遊びとして楽しい。
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