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松村貞三さん [音楽全般]

 また一人、大切な人が亡くなられた。作曲家の松村貞三氏である。私の一番敬愛した作曲家の一人である。
多分最大の傑作はオペラ「沈黙」であろう。遠藤周作の小説を題材にしたかくれキリシタンの殉教ものがたりである。このために13年の月日を費やされたと聞く。こんな話がある。私が芸大在職時代のこと。松村さんが、選挙で学部長に推薦された。しかし彼はそれを断ったのだ。学部長というのは自分で好きこのんで立候補するわけではないにもかかわらず、選ばれれば大学をやめるくらいの覚悟でないとなかなか断りにくい雰囲気がある。

 「申し訳ないがこの話はお受けできない。実はオペラの作曲の委嘱を引き受けて、ギャラを先にもらったのだけど、その大半を使ってしまったから、今はもうやるしかない。学部長をやっている余裕がないのです。」
みんな大笑いになったが、芸大は松村さんを失うことになった。このオペラがくだんの「沈黙」であったのだ。大学の学部長や教授の地位もなげうっての大仕事、そうそう誰にもまねの出来ることではない。しかもそれを補ってあまりある傑作を残されたのだ。楽壇全体の利益を考えるなら、芸大に残られるより、この方がはるかに得るところが大きいと思う。

 松村さんの音楽には歌がある。現代音楽嫌いの人にもわかりやすく、心を打つものがある。師匠の伊福部昭ゆずりのものかもしれない。私も多くの邦人作曲家のピアノコンチェルトを初演したが、いまでも芸大時代に演奏した松村さんの第1コンチェルトはその独創性と音楽の深さで右に出るものがないと思っている。


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