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和声感について(1) [ピアノ音楽]

 作曲家と話をするのは同じ曲についてもピアニストと観点がひと味違うから、私は面白くて夢中になるたちなのだが、今日は、教授のIさんと話をしていて、シューマンのトロイメライの最初の「C」の音はなんの和音か、という話になった。見方はいろいろあるが、少なくともこの音をトニカと考えるかドミナンテと考えるかで、最初の1個の音の弾き方はだいぶん変わるはずだよね、ということで意見は一致した。ここまではまああたり前の話である。

 この曲をすでに知っている人(これを弾くピアニストは何度か練習をしているはずだから)はなんの疑いもなく、トニカと考えるであろう。次の強拍がトニカであることをすでに知っているからだ。でも初めて聞く人、それとこの曲の再現部をもう知ってしまっている人はドミナンテだと思うかも知れない。どちらも可能だからどちらも正解である。

 だが、と私は考える。この曲を独立した曲とみるなら、どちらもまっとうな考えであろう。しかし、「子供の情景」を冒頭から弾き進んで、前の曲、つまり、「重大な事件」を弾き終わったあとにこの曲にとりかかるとなると事情はがらっと変わる。前の曲の終止音はイ長調である。次のヘ長調とはどういう関係にあるか。どちらにも共通の音は、「A」しかない。そうすると、多分最初に触れたどちらの和音でもなく、自然にヘ長調に移行するためには、A,C,Eつまり前の曲でいえばイ短調の和声、トロイメライのヘ長調でいえば3度の和声となり、この和音を介してはじめて自然に移行が出来る。そうするとこの場合に限って「C」はイ短調の第3音と考えるのが(たぶん!)正しい、ということになる。

 この移行のかくれ和音をそれとなく聞き手に感じ取ってもらうためには、少し時間をおかなくてはならない。これが和声感というものでもあろう。でもピアノの先生は、ふつう、ここで少し間をあけなさい、と生徒に注意するだけである。まあ教え方としてこれでも間違いではなかろうが、これでは生徒に和声を分かってもらうのは難しい。
 
 日本の音楽学生は和声感にとぼしい、と一般にいわれるし、私もそれは常日頃感じている。教師としてどうすればいいか。なかなか名案は浮かばない。和声学の理屈を習ったから分かる、というものでもないからだ。ひきつづき時折ブログでこんなことをつづってみたい。
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大澤徹訓

A,C,Eは、F-durにおいて属和音C,E,Gの代用和音となりますね。
トロイメライの出だしは、さらに繊細な感じを理解してもらうために、最初のCのバスにGを置いて、属七の2転G,E,B,Cの和音を入れてみるとよいかも知れません。
2転は機能性が一番曖昧になる和音なので、それをあえて使うことによって曲間の間合いとか、曲の質感の違いとかを考える手段になるかと思います。
属七の2転をフレーズのまとまる要所に使うことは極めて稀なのですが、潜在的にこのような曲は、この2転属七が鳴っているのではないかと考えます。
by 大澤徹訓 (2008-05-25 21:34) 

klaviermusik-koba

まあバスがA-G-Fと下降するわけですから、説明的にはそれが一番完璧ですね。シューマンに限らず、単音で書かれるとき、西洋の音楽家は、たいていどんなハーモニーが潜在的に鳴っているか、を本能的に感じ取るのに対し、日本人は単に1個の音としかとらえない傾向がある、ということを、要するにいいたかったのです。
by klaviermusik-koba (2008-05-26 09:22) 

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