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いろいろの人生 [ピアノ音楽]

先日、Mさんから突然電話がかかった。何年ぶりかである。日本の私立音大を中退し、パリで長らくピアノを勉強していた人である。ピアノ一筋、という感じであった。ところが、何か考えるところがあったらしく、帰国して会社に勤めることになった。一流の大企業である。昔ピアノを習った先生からは大目玉を食らったそうである。パリ音楽院まで卒業して、ここにきてピアノをやめるとは何事、というわけである。さもあろう。でも私はそうはしなかった。それもひとつの選択だからそれもいいではないか、と思ったからまあしっかりやりなさい、と励ましておいた。

ところが、である。数年後のこの電話で私も少し困った。「実は会社はやめました」という。一流企業に就職したからもうこれで一生安泰、のはずだったのにまたどうして? という私の質問にたいして、「あんまり仕事が楽で快適でありすぎてこんな一生でいいのだろうか、とさんざん考えたのですが、やっぱり自分はピアノから離れて生きられない、と思ったのです」またピアノのレッスンを再開したいがレッスンに伺ってよろしいでしょうか、ということのようである。それはまあいいのだが、でも自分の生活はどうなるのだろうか。もういい年して親がかり、というわけにもいくまい。まだいろいろ聞いてみないとわからないことが多い。

世の中の親はたいてい、ピアノなんかやっててこれで娘の将来の就職はどうなるのか、と心配するものである。そういう親に対しては私ははなはだつれない。「その程度にしかピアノが好きでないのならここでさっさとやめた方が身のためです」。でもMさんの場合は違った。一流会社の社員、というイスを棒に振ってもピアノをやっぱりやりたい、という思いが強いようである。もういい年をしての決断だから生半可な決心ではないのにちがいない。「人はパンのみにて生くるにあらず」は真理ではあるが、「人はパンなしに生きる」のもまた不可能だからだ。(札幌)
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K.

ほう・・・すごい方ですね、Mさんの決断はびっくりします。
ご自身の考え方にものすごく厳しく対応される方なのですね。

・・・私が指導している学生たちにも
「よく頑張るな・・・」と学ばされる子達がいます。
Mさんほどではないんですが。

でも、なんか人と触れ合いながらも
また色々と若い世代からも教わっています。


・・・そろそろ試験シーズンで、
ちょっと実は既に疲れ気味なのですが、
学生たちの頑張りに、助けられている気がします。

私の教え子からは、どんな人生を歩む子が出てくるかな?
楽しみです。
by K. (2009-02-07 18:38) 

klaviermusik-koba

多くの生徒の一生を見ていると、それは千差万別です。最初がダメだからずっとダメ、ということもないし、その逆もあります。ほんとに気長に見ないとダメですね。
by klaviermusik-koba (2009-02-08 09:24) 

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