海上自衛官からのたより

　面白い人生もあるものである。海上自衛官、と書いたが、かつて私のG大時代のピアノ科の学生であったSさん（女性）。それも優秀な学生で世が世なら新進ピアニストで立派にやっていける腕前を持っているし、実際、大学卒業後、自作曲も含めたピアノリサイタルデビューも果たしている。目のつけどころがユニークなのは、就職活動といっても音楽大学などを目指さなかったところにある。この就職難の時代、生半可に音楽大学の就職を目指してもすごくいい人生が待っているとは思えない。

　相談、といってももうほぼ決まってからの電話だから私としても賛成も反対もしようがないのだが、海上自衛官に応募しました、と電話相談を受けたのが１年半前。めでたく採用となって現在に至っている。彼女はピアノ以外に他の楽器もできるし、作曲、編曲能力も学生時代からいつの間にか身につけている。こういうマルチな能力を持った人にはうってつけの仕事ではないかと思うのだ。

　楽しそうな手紙の内容だが、プライバシーにわたるからくわしくは書けないけれど、身分としては中途採用なので中くらいの階級なのだそうだ。仕事の内容は吹奏楽や小編成の楽器のための編曲、それも上官の命令で、この曲をやれ、といわれれば、好き嫌いなしになんでもやらなくてはいけないらしい。時には自衛艦で海上コンサートとかいってピアノも弾く。

　彼女がこの先どんな人生を歩むか分からないが、人がやらない、面白い人生が開けそうな気がする。私が若く、もし今のような就職難だったら、私なら迷わず選びそうな道だろうと思うのだが。残念だなあ、と思うことしきり・・・。