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リスト/ピアノソナタの構成(2) [ピアノ音楽]

 同じ頃、リストは第1ピアノコンチェルトの作曲も同時進行していた。第1コンチェルトとソナタの間には構成上ある共通点が見られる。コンチェルトの4つの楽章はそれぞれ、4つの楽章に分かれてはいるものの、休まずに続けて演奏されることと、それぞれの楽章の最後はたいてい完全な終止形をとっていないから、一般のコンチェルトのようにひとつの楽章だけを単独に取り出して演奏することは不可能となる。

 第2楽章にゆっくりしたカンタービレ、第3楽章にスケルツォを挟んでいるてんでも似たところがある。もっともこれはシューベルトのWanderer Fantasieの影響ではあろうが。ただし、構成はソナタに比べるとずっと自由で、ある意味、散漫ともいえるが曲全体の大枠ではソナタと似た構成である(ソナタを4楽章形式を踏んでいる、という見方に立てば、の話だが)。冒頭のTutti Es-durのモティーフが全曲わたって循環的に何度も再現し、これが全曲をまとめる役割を果たしているものの、その間にもたらされるいくつかの新しい主題はいずれも第1主題とは動機的、調性的関係をあまり持たず、古典的な意味でいうならコンチェルトという名称はふさわしくないであろう。

 作曲された年代はずっと古いものの、第2コンチェルトも似たような構成で、第1主題がいろいろと変容されてなんども再現される。主題を変容させるとき、調性、リズム、速度、ダイナミクスなどを自由に変化させて、もとのテーマを聞き手に充分わからせながらも存分にパラフレーズさせるリストの天衣無縫で卓抜な能力は歴代天才作曲家の中でもとくに際立ったものだと思う。そして、この際立った能力が後世、内容に乏しい、という不幸な誤解を招く最大の原因にもなるのだが。

いずれにせよこの方法によってかろうじて曲全体がバラバラ、支離滅裂になる危険性を防いでいるのである。これがリストの規模の大小を問わずあらゆる曲に共通する特質、といっていいかもしれない。

 したがってコンチェルトにも応用される古典的な意味でのソナタ形式とは、まったく縁が遠い。考えてみればコンチェルトはコンチェルトであってソナタ形式で書かれなければならない、と決まったものでもないから(従来の作曲家はずっとこれを踏襲しているものの)リストは曲の構成においてコンチェルトとソナタとは一見似ているように見えながら、はっきりと一線を画している。

 ひとつの主題が出発点となって、それがいろいろに変容し、曲に変化と統一をもたらす新しい作曲の仕方は、後世に重大な影響をもたらす。一例をいえば、リヒアルト・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。この曲は変奏曲形式で作られているが、実際はドン・キホーテの主題がそのときの主人公の気分や様子に応じて自在に変容され、その間にサンチョ・パンサや、貴婦人に見立てた田舎娘やら、ヒツジの群れ、とかいった副次的主題が組み込まれる、という曲の構成はリストのソナタやピアノコンチェルトを抜きにしては考えられないであろう。そのことだけをとってみてもリストの功績は音楽史上、特筆されるべきものだと思う。

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コメント 3

高本秀行

リストのピアノ協奏曲2曲の評価はピアニスト・学者の間では確実にロ短調ソナタより遙かに低いですね。リスト弾きで有名なブレンデルが「デジタル録音」でどちらも全く録音しなかったですし。ロ短調ソナタは2回デジタル録音しているのに。
第2番イ長調の方は私はよく理解できないのですが、第1番変ホ長調協奏曲は、「循環ソナタ」としてはよくできている曲の1つに感じます。物足りない点は

1.時間的に「ロ短調ソナタ」の6割に満たず、半分程度の長さ(手本にした「さすらい人」幻想曲よりも短い)
2.各楽章の主題があまりに「第1楽章第1主題」に近似している
3.「展開」が物足りない

の3点であり「主題の派生」自体は素直な曲に感じます。小林先生のお考えを、もし寄り道のお時間があるのでしたら教えて頂ければ幸甚です。
by 高本秀行 (2010-02-07 20:05) 

klaviermusik-koba

ソナタの完成度の高さはコンチェルトに比べれば段違いだと思います。ただ、音楽で面白いのは完成度の高さと音楽的魅力、とは必ずしも一致せず、人の好みもまたちがいますから、こればかりはなんともいえません。私は個人的には2番のコンチェルトは子供の頃からなじんでいたこともあってとても好きなのです。

2番はリストの若い頃作曲したものですが、その後何回も改訂、推敲を重ねて現在のものにいたっています。(最終版の出版はソナタよりもあとになる)構成の弱点もその気になれば直せたはずですが、それはそのままにしているところを見ると、作曲者もそれでよしとしたのでしょう。
by klaviermusik-koba (2010-02-08 08:21) 

高本秀行

明日の講義は楽しみにしております。よろしく御教示下さい。
by 高本秀行 (2010-02-14 20:19) 

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