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フーガの技法(Spiegelfuge) [ピアノ音楽]

  複雑になればなるほど,バッハの腕は冴えるようである。12番の4声フーガは二つのフーガが一対になっており、二つのフーガ全体がお互い鏡に映したような完全な上下対称になっている。時折必要に応じて使われる臨時記号で調整される。正行、逆行を同時に演奏することはできない。ベーレンライター版のスコアのように同時進行で書かれているのを見れば一目瞭然。このフーガをピアノで弾くのは不可能ではないがかなり困難である。10度を楽に届く手を必要とする。私は10度を連続で弾くことはできないので指使いにもそれなりの工夫が必要となる。

 テーマはバスに始まり,順次Comes,Dux,Comesと上行するが、鏡に映ったほうの反行の方はソプラノで反行テーマで始まり,逆に下降する。第2提示部は同じやり方でテーマがかなり変奏されていて,応答が関係調へ転調する。最後の提示はアルト(反行型ではテノール)で終わる。

 音楽に自然な起承転結があり、56小節の中に音楽としての見事なまとまりがあり、まさにあるべきように音楽がある、というふうでこの驚嘆すべき技法の中にまったく混乱したところが見られないのがすごい。苦労はするがさらってみる価値は充分ある。ペダルの助けを借りられないチェンバロで一人で正確に演奏するのは不可能に近いのではないか。

 なにもそんな苦労をしなくても弦楽合奏でやればほとんど初見でできるのだから何もそんな苦労をする必要はないのでは、という人はいるかもしれない。しかし難しくとも全部の声部を一人でコントロールする快感,というのもまた存在するのである。
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