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スクリャービンの「白ミサ」 [ピアノ音楽]

 昨夜、洗足学園の恒例の講座で、岡田敦子さんに来ていただいて、後期スクリャービンに関する対談、というよりは私がもっぱら聞き役に回る、というやりかたで和声,旋法、形式、それにスクリャービンの神秘思想という根幹の問題など、ピアノを弾く上で問題となる技術的なことも含め、時間の許す限りあらゆる観点を洗い出し、とりあえずは、2時間という限られた時間ながらほぼスクリャービンに関する一通りの問題は提起出来たように思う。

 終わってみて思ったのは一番難渋したのが独特の和声の問題。何か一つの法則、もしくは一つの思いこみだけでは問題は解決せず、もっと違った観点を見つけ、そこを拠点にしてさらに探る必要がある、と私は感じた。これは私の今後の課題として残った。しかし私自身もこの講座は大いに楽しんだのだ。岡田さんの説明に対し、私側からの問題提起もいっぱいあったので、あれほど徹底的にスクリャービンを研究してきた岡田さんも「こんな発想もあるのか」と驚かれたほどで、それだけ奥が深い、ということでもあろう。とりあえずは講座は終わったものの、もうすこしこの難曲をさらって取り組んでみることにしている。

 洗足学園のこの連続講座のテーマは最近学生に喜ばれるかどうか、はほとんど無視して自分が今一番興味を感じていること、一度はやっておかなければならないこと、だけにしぼってきた。大学が許してくれる限りこれは続けようと思う。後期スクリャービンも信時潔も一般受けするテーマではない。
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Bravo_Daniil!

 26日はおつかれさまでした。本当に興味深く、楽しくきかせていただきました。
 なぜソナタにこだわったのか、に関して。1972年と1999-2000年の2度にわたりソナタ全集を録音し、旧ソ連の各地でソナタ全曲を弾いてきたイーゴリ・ジューコフに、スクリャービンのソナタが意味するところを尋ねたことがあります。答は明快でした。「創造の哲学!」
 そもそもスクリャービンは物事をゼロから考えてゆく人物で、夥しい文章を書きのこすことで、まさに「創造」の意義を突き詰めようとしていました。それを彼の作品とどう関連づけるかは一見わかりにくいところです。が、ソナタ形式は、弁証法的な論理に基いていて、対照的な性格をもつ存在の邂逅が「創造」のありかたを定めます。だからソナタを書くことは、スクリャービンにとって、「創造」の多様な可能性を実証するための重要なステージだったように思われるのです。実際、10曲のソナタはそれぞれ異なる性格を帯びています。(ゆえに続編希望!なのですが)
 ところで、ある授業でゲンリヒ・ネイガウス『ピアノ演奏芸術』を1年間読んできました。ご承知のように、ここには、スクリャービンに関して面白いことがいろいろ書いてあります。そのひとつ。「スクリャービンはことのほかベートーヴェンの《ソナタ作品28 田園》を愛しました−−どうしてだかはお分かりでしょう。小節の強拍における軽い不協和な和声を伴った、曲の初めのほうの小節: [譜例、冒頭6小節]これはスクリャービンの和声的思索とどこか共通性をもっています」(p.240)
by Bravo_Daniil! (2011-01-28 05:34) 

ake_i

私も本当に楽しく興味深く聴講させていただきました。
先生の導入から岡田さんの演奏までの時間は一秒たりとも息を抜く時間がありませんでした。
演奏するからにはわかって弾く!!!と先生が何度もおっしゃられたこと、とっても身にしみます。山田耕作先生がスクリャービンから影響を受けたことも、和音を真似ているけれどちょっと違う・・・これも大興味。
日本において3つのエポック、これから4人目が出てくると益々この作曲家がわかりやすく後世に広まって(日本で)いくでしょうね。但し、難しい。
神秘和音の分解も面白かったです。先生が根音にこだわってお話を進められたことが私にとっては一番理解が出来たことです。岡田先生が神秘和音の解析をされ目からウロコでした。
昨日、自分の仕事でC/E/Fis/A/B/Des~C/E/Fis/A/B/Dの変化を実際にピアノで聴いてもらったら「なんか落ち着かない響きですね。」と(笑)
そしてモーツアルトやバッハ、ベートーベンのレッスンで今まで以上に和声がどれだけわかりやすいかということも26日の講座を聴いてより深く考える昨日でした。
一番心に残ったこと。
終盤に入りどの音のラインを引き立たせるかという議題に入り「寺や教会の鐘はバスが残るわけではない」と先生がお話されたこと。
私も毎日近所の鐘の音を聴くたびに、どれが基音になるのだろう?と耳が反応していたところです。倍音が沢山あるけれど、きっと一つは響きが最後まで残るのだろうな・・・・と感じていました。スクリャービンの響きを考えるのに学術的なことだけではなく感覚的なことまでお話される先生。
昨年9月のショパンOP61もそうでしたが、とってもとっても勉強になりました。私は関係者外なのに本当に感謝しています。また楽しみにしています。お疲れさまでした。奥様ともお話が出来て嬉しかったです^^
by ake_i (2011-01-28 08:33) 

klaviermusik-koba

Bravo_Daniillさま

 たいへん貴重なご意見ありがとうございました。積みのこしたこともたくさんありましたが今後の課題として考えます。調性がなくなってしまってもソナタ形式は現代もずっと生き続けていますが、その先鞭をつけ、それも非常にユニークで誰もマネのできない形で実現したのがスクリャービンでしょう。これが先鞭となって、例えばブーレーズやヒナステラやデュティーユや・・・などといった作曲家がピアノソナタをさらに可能性のあるものとして発展させることができたのかも知れません。しかしそれもこれも、基本はベートーヴェンにある!
西洋音楽の伝統恐るべし、です。

ネイガウスの「ピアノ演奏芸術」は昔読んだはずですがもう一度読み直してみます。ありがとうございました。

ake_i様

 ご遠方ありがとうございました。私もこういうシリーズで自分を追い込まないとなかなか勉強しないので、今後もどういうネタでやるか、時にはじぶんの不得手の領域のことをやるのも必要だと思い、年齢は考えず、間違えることを恐れず、いろいろ勉強していきます。それにしてもスクリヤービンは譜読みだけでも死ぬほど難しいですが、それでもやっているうちにだんだんはまるようになるのは、いくら難しくても何とか努力してみようという深い内容がある音楽だからだと思います。

おわかりづらいところもあったかと思います。実は私自身にもよくわかっていないところもあるしまだまだこれからです。

まあ正直のところ、やはり依然として私の気質にはあまり合わない音楽です。いくつになっても自分の限界を少しでも広げる必要性を感じた一日でした。お疲れさまでした。
by klaviermusik-koba (2011-01-28 18:58) 

Bravo_Daniil!

 コメントどうもありがとうございます。『ピアノ演奏芸術』は2003年にトロップの序文がついた新しい訳本が出たので、そのページ数を書きましたが、旧版にもたぶん同じ譜例が載っていると思われます。くだんの記述は、第5章「先生と学生」の中ほどにあります。
 晩年のスクリャービンが作曲語法をきわめてせまく絞り込んだにもかかわらず、その作品を通じて、しかもそのバイブルの偉大さを証しながら、つづく世代を鼓舞することになったのは、音楽の歴史のじつに素敵なところだと思います。

 もしフロアからの質問が許されたなら、なぜ先生がスクリャービンの後期作品を苦手と感じられるのか、もっと突っ込んでおたずねしたかったところです。たとえば7番の第2主題部で落ちるべき音に落ちない、というような違和感にこそ、本質が宿るように思われるからです。分析するにも、譜面を開くたびにちがうことを思いついてしまうような難物です。それでも、いつまでも、先生が、そのような面妖な作品に果敢に取り組もうとする人たちの味方であっていただければ、と心より願わずにはいられません。どうもありがとうございました。
by Bravo_Daniil! (2011-01-29 02:51) 

klaviermusik-koba

いろいろ考えさせられるご意見ありがとうございます。
自分の趣味趣向について、なぜこれが自分の趣味に合わないか、を説明するのはなかなか難しい。端的に言えば偉大な大先輩である「山田耕筰」型と「信時潔」型に分類するとすれば多分私は「信時」型に属するのではないかと思うのです。

私は40才近くまではまだインクの乾かないような新しい作品をたくさん手がけてきました。理解出来ない作品についてはまだ自分が到らないから理解出来ないのだ、という罪悪感にさいなまれてもきました。

60才近くになって人生の先が見えてくると、理由は何であれ、「自分の心に響かない音楽などやっている暇はもはやない」と思うようになり、「心に響くか」「響かないか」を基準として「事業仕分け」をしたのです。そのなかで後期スクリャービンは実はその「どちらともいえない」やっかいな存在で「苦手」と申し上げたのはそういう意味です。

もとより、先生の立場として、自分の趣味に合わないものでもそれに取り組んでいる若い人たちには「自分にはよくわからないけど」というエクスキューズをつけながらもいつも彼らを応援はしているつもりですし、それでも理解をしようとは心がけています。

この10年間、毎朝必ずバッハの「フーガの技法」を何曲か弾いてから自分の仕事に入ります。またゆっくりお話がしたい。ご健勝をお祈りします。
by klaviermusik-koba (2011-01-29 10:41) 

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