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仙川アヴェニューホールのFAZIOLI [ピアノ音楽]

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 世田谷区に30年近く住みながら、このホールの存在すら知らなかった。家からタクシーで10分くらいだから、ほんの目と鼻の先の距離、といえる。このあたりは桐朋学園の近くにあって小ホール(100席程度)とミュージアム、マンションなどの集合体で、ちょっとした文化圏を形成している。

 ピアノコンクールの審査を頼まれての仕事だが、今日は大人、それも40歳以下で、音楽大学を出た人、出ていない人、の二つの部門に分けられている。これは学生コンクールなどよりめっぽう面白い。音楽大学を出た人たちの演奏は、上等とまではいえないまでもまあそこそこにレベルは揃っているが、一般大学(もしくは大学も出ていない)の部門はまあ、めっちゃ面白い。楽譜は見てもいいことになっているらしいが、キリはまるでいま、初めて見せられた楽譜を見ながら弾いているのではないか、と思うようなのもいれば、ピンのほうはそこいらの下手な音大生など足下にも及ばないような上手なのも数は少ないがいる。曲目も私が知らないものも多いのでiPad持参するくらい、レパートリーが広い。

 中でも感銘を受けたのは、もう頭も少しうすいオジサンでそれも月光ソナタ、というから、私ははじめから期待していなかった。しかし、聞き進んでいくうち、どこという変わったことをするわけではなく、どちらかといえば不器用なピアノなのだが、確かなテンポに加えて、しっかりと私はベートーヴェンの音を聞き取ったのである。若い器用な学生が力まかせに弾きまくる熱情ソナタなどとは、どだいレベルが違う。聞けば東大の法学部を出た弁護士さんだそうで私はいたく感銘を受け、襟を正して聴き、満点をつけた。

 もう一つ面白いのはこのホールのデザインも奇抜だが、セミコンサートのFAZIOLIが備えられていることで、これでオーナーの志がわかる。スタインウエイなどでないところがすごいのだ。コンクールが終わってから少しピアノに触らせてもらったが、このピアノは、繊細さと、力強さを兼ね備えた素晴らしい楽器である。さすがにストラディヴァリを生み出したイタリアのピアノではある。国はつぶれかかっているが文化はつぶれない。日本は国がつぶれる前に文化がつぶれるのではないか、という危惧を私はいだいている。
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K.

あぁ、そういう演奏に出合う事ってありますよね。

音楽の本質を聴かされるというか、私も1度NYでありました。
ゴルドベルグ変奏曲のアリアのみなのですが、とある調律の方の演奏で。不器用なのは間違いないのですが、涙が出てくるほど美しいアプローチでした(表現がとかじゃなくて、演奏する人の心が)。

それって実は、半端なく幸せなことなのですよね。
by K. (2012-12-26 00:11) 

klaviermusik-koba

期待していない時にいい演奏にめぐり合うのは嬉しいものです。
ところでこのFAZIOLIは素晴らしい楽器で、ここでちょっとしたコンサートがやれるのはいいですね。ただ、少し場所が不便なのが難点といえばいえますが。。。
by klaviermusik-koba (2012-12-26 12:45) 

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