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電子ピアノの利用価値 [ピアノ音楽]

  去年以来、洗足学園の仕事で編曲にかかわっているうち、このところ電子ピアノにすこしはまっています。クラヴィノーヴァ(メーカーによってはただ「電子ピアノ」とよぶ)という楽器です。普通のピアニストは、だいたいこんなものはピアノ「もどき」であり、馬鹿にしてまず見向きもしない。たしかにどのレジスターをとってもピアノ「もどき」であり、チェンバロ「もどき」であり、オルガン「もどき」です。ですから本物志向の人にとってはどれも中途半端で使い物にならん、というのもよくわかります。住宅事情でピアノの音が出せないからやむを得ず電子ピアノを使う、というのも消極的ではあっても一つの利用価値ですが、最近私はこの楽器にもうすこし積極的な使い道をいろいろ発見しています。

 電子ピアノといっても値段により、かなり内容に違いはありますが、わたしの持っているのはカワイ製の、なかでも一番安いもの。それでも、いろいろ面白い機能がついていて、それは使い方しだいでかなり重宝することがわかってきました。私がはじめてこの楽器に接したのは比較的最近ドイツで、あるヴァイオリニストが住宅事情でピアノがおけないので練習用として持っていたものを使って以来です。

 使い道をここで全部書く余裕はありませんが、一度ためしにバッハのフーガをこの楽器の教会オルガンレジスターを使って弾いてみることをおすすめします。日本でオルガンに実際接することはやはりまれですし、仮にそういうチャンスがあってもピアニストは先ず足鍵盤でお手上げになる、やっぱりだめだ、とあきらめてしまう。しかしこの楽器には足鍵盤がないからピアノと同じように扱えます。これでフーガを弾いてみると、対位法のなんたるかがよくわかり、ペダルなしでフーガを弾くことの意味がわかってきます。確かにオルガン「もどき」ではあるのですが、一度押さえた鍵盤は、指を離さない限り鳴り続ける、逆にいうと、ピアノのペダルでいい加減ごまかして弾いていた音はきちんと押さえていないと鳴り続けてはくれません。足鍵盤で鳴らし続ける「オルゲルプンクト」の醍醐味を味わうことは出来ませんが、ある程度フーガをピアノで勉強した人なら、手でかなりの程度補うことも出来ます。

 考えてみれば私たちはバッハの平均率をピアノで弾くのをごく当たり前、と思っているのですが、18世紀、バッハの時代から逆に俯瞰すれば現代のピアノも彼らにとってはやはり「もどき」にすぎません。同じ「もどき」ならまだしも電子ピアノのオルガンレジスターのほうがより「もどき」度が低いのではないか、とさえ思えます。
 最近私はバッハの最晩年の未完の傑作「フーガの技法」をピアノで勉強していて何となく納得のいかない部分があったのですが、この楽器でやってみているうちに、実はいつのまにかこの作品に深くとりつかれています。ただこの楽器といえどもそれなりの習熟が必要なので、この楽器で「りべーろ・とまり村」の例会で「フーガの技法」をみなさんにお聴かせできる自信はまだいまのところありません。でもまあもう少し頑張ってみます。河合楽器の人たちには、この楽器の魅力を縷々話した上で、せめて、オルガンのプリンシパル・パイプの4フィート、8フィート、16フィートくらいの音を分離したりミックスしたり出来ればいうことないなあ、と話しましたが、彼らは私の思いつきを熱心にメモしていました。コストと需要の問題もあるから実現するのかどうかわかりませんが、技術的には困難なことではないはずです。


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コメント 2

大澤徹訓

電子ピアノは、20年以上前から先生がお使いになっているような用途で私も使っております。作曲科の学生に、主題の内容にもよりますがフーガを書かせる時は、まずオルガンの音を意識させるようにしています。そのときに電子ピアノやデジタル音源のオルガンはとても良い道具です。
オルガンのレジスターを変えるような設定、デジタル音源でマルチチャンネルにすれば、かなりのことが出来ます。すごく面倒ですが・・・
ローランドの電子ピアノ、黛先生が生前岩城宏之氏とCMに出ていらっしゃって、そのころ先生も盛んに使ってらっしゃいました。事務所にクラヴィノーヴァを置かれて「これ音色で遊べて楽しいよね!でも遊んじゃって仕事にならない!」と喜々としておられたのが印象的でした。
電子ピアノ、曲によってはピアノよりもバッハのポリフォニーの本質をより実感できると思います。
by 大澤徹訓 (2007-03-04 22:48) 

klaviermusik-koba

確かにピアニストはそういう面では保守的で、作曲家の人たちと話してみるとそういうアレルギーを持っている人は殆どいません。
遊び道具としては確かに面白くなかなかいいのですが、私は、じゃあ、これを使って人前できちんとした料金を払った人にきかせられる代物か?と考えてしまうのです。まあアナログの楽器を使ったからといってその音楽が料金を取れる音楽かどうかはまた別問題なのですが。
by klaviermusik-koba (2007-03-05 09:01) 

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