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「ラインゴルト」考 [一般向け]

 1987年にドイツの伝説的な豪華列車「ラインゴルト」が営業運転を終了した。ワーグナーの楽劇「ニーベルンクの指輪」、これは上演に4晩もかかる超大作だが、その序幕にあたるともいうべき第1夜「ラインの黄金」。この全部の楽劇は非常に筋が重層的で複雑なために、一言でいうのは難しいが、ライン河のそこに眠っていた黄金を地底国のアルベリヒが奪い、指輪に仕上げる。これは呪われた指輪となり、これを所有したものはことごとく非業の死を遂げる。この黄金の指輪は富と権力の象徴であり、現代の人間にも鋭く問いかける内容を持つが故に、その音楽のすばらしさもさることながら、時代を超えた人間の持つ業の深さをえぐり出している。

 最後の「神々の黄昏」では、ブリュンヒルデが燃えさかる炎に身を投じ、同時にこの指輪を代償として築きあげた天上のワルハラ城も神々の主であるヴォータンとともに炎に包まれるところで幕がおりる。私はスコアと首っ引きで1年かけてこの楽劇を勉強し、バイロイトでその全曲を鑑賞して深い感動に包まれた。「ラインゴルト」の快適な車内で風光明媚なライン川をめでながら、この列車の名前の由来になったWagnerの楽劇に思いを致す人がどのくらいいるだろう。こういう名前を最大の豪華列車に命名するのは、やはりドイツ人というのは本質的に哲学的だからなのかもしれない。他の国が「エーデルワイス」とか「ル・ミストラル」といった名前を代表的な列車に付けるのを見ても、ヨーロッパの国民性が端的にうかがわれておもしろい。昨今のドイツの様子をかいま見るにつけ、ドイツ人がこの言葉の持つ現代的意味は終わった、と考えてこの名称を廃止した、とかんがえるのは、少しうがちすぎか。


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