指揮者とはなにものか [ピアノ音楽]
最近、私はピアノの学生たちに「若いうちに指揮を勉強しておくと将来何かと役に立つよ」とアドバイスしている。プロの指揮者になる必要はないが、ピアニストではあっても指揮の心得は身を助ける。作曲家や声楽家の多くはアルバイト、もしくはボランティアでママさんコーラスとか、アマチュアコーラスなどを指揮していて、上手かどうかは別にしても、ともかく棒は振れる人は多いがピアニストとなると本当に少ない。
きちんと拍子がとれる、ということは自分のピアノのテンポをよくするにはとても助けになるし、生徒を教えるときも、口でゴチャゴチャ言うよりは、身振りで曲のテンポや感じを伝えることが出来て、これは直感的に生徒に分かってもらえる早道であることは経験上よく分かっている。
私はプロではないが、必要とあればオーケストラの指揮はある程度出来るし、これまでも自分からしゃしゃり出ることはしないが、依頼されれば、自分で出来ると思えるものは何度かやってきた。でも一度断ったことはある。私の室内楽のリハーサルを見ていた、都響のあるプレーヤーから、「こんなピアノを弾くひとなら、面白そうだから、都響をぜひ一度振ってください」と頼まれたが、「やれないことはないと思うが、海千山千のプレーヤーを前にして、この年になって恥をかくほど私も人はよくありませんから」とやんわりお断りしたが、これはいまでも正解だったと思っている。自分で楽器が演奏が出来る、ということと、それを人に伝えることとはまた別ものなのだ。
プロの指揮者というものは、かっこよく見えるが実際は大変な職業である。多くの指揮者に接し、自分でも実際やってみて分かるのだが、「指揮」ほど誰にでも出来、しかも誰にもなかなか出来ない職業もめずらしい。
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