金田中(かねたなか) [グルメ]
こういう超高級料亭にふだんさっぱり縁のない人間だから、きんたなか、といって笑われた。知る人ぞ知る、新橋演舞場のうらにある超高級料亭に、ある奇特な方のお招きで一晩の食事にあずかることになった。一般には無理で、かりに金があって、自分でも行ってみたい、と思っていきなり電話の予約など入れても一見(いちげん)さんはまず断られる。
私が恥をかいたのはそれだけではない。電話を入れて、駐車場はありますか、と聞いたのだ。「いえ、そういうものはありません」。つまりここへは自分で車を運転していくような人などそもそもいない。運転手付きの車でのりつける、そこまで行かなくてもハイヤーでのりつける、というのが常識だからだ。
普通なら少し無理してでもハイヤーで乗りつけるところだが、私は実質主義で地下鉄の築地市場駅のすぐそばだから、地下鉄で行くことにした。だがこれは正解だったようである。タクシーで来た人たちは、ちょうどこの付近、夏祭りまっただなかで交通規制が敷かれ、大変な渋滞にあったみたい。
料理については、文章でそれを表現するのは難しい。客の気質、健康状態、その他を勘案して、料理は多すぎず、少なすぎず、実に年寄り向きな健康食そのものであるが、まあこれほどの料理を口にすることは二度となかろう。聞くところでは、その日の築地市場のなかでも、一般に出回ることのない最高のものを選び。そのなかでも一匹の魚から、料理に出せる材料は普通は食べられる肉の中の三分の一あるかなしか、だという。宴たけなわの頃、もと「なだ万」にいて最近ここへ移ったという料理長が顔を見せ、挨拶に立った。特に飾ることも、気取ることもない、普通の会話で一同を和ませてくれた。招待をしてくださった主は「金田中」の名前でここへ来るのではなく、料理長が誰か、ということを知ってそれを目当てに足を運ぶのだ。
たまたま前日の夜、NHKのTV番組で、江戸時代の超高級料亭、「八百善」のメニューが話題になっていた。将軍家がわざわざ出向く料亭である。ちょうどその頃日本は大飢饉の最中で地方では餓死者がたくさんいる中、江戸では、こんな贅沢が出来る人が数多くいたのだ。でもこれ、300年あとの現代ですら、世界規模でものをみるなら、全く同じことではないか。
2008-07-26 09:55
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コメント(4)
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・・・あ、あたしも”きんたなか”と
そのまんま読みました(汗)。
私なんかがその席にいたとしても、
ド緊張で、何かお味まで忘れてしまいそうな。
母親の手料理でも十分幸せなんです(笑)。
そしてまた、自分で作るのが楽しい・・なんて、
私みたいな庶民がコメントするレベルではなかったか・・・
でも一度覚悟を決められるようになったとき、
ぜひ体験してみたいです。
by K. (2008-07-27 22:21)
これもたまにだから感激するのですが、3日もこれが続けば音を上げるでしょう。まあそんなことあるわけないけど。。。
ええ、一度覚悟を決められたら、料理長の名刺をもらってあるので、招待してくださった主から、料理長に一言、口を利いてもらえば通してもらえるそうです。(ただし値段はあらかじめきくものではない。インターネットで探せば基本的な値段はでているけれど、もちろんそれだけですむわけはない)
by klaviermusik-koba (2008-07-28 09:03)
カネダ ナカと思っていました。
文章を読んでいるだけでも、別世界の次元です。
万が一、このようなお店にご招待をされたら、着ていく服から調達しなければなりません。(爆)
メニューに搾り生姜と見えます。
添えられた薬味なのでしょう?
生姜は今、体質改善のために毎日薬同様に摂取しています。
もう4か月は続けており、体調が良い方に向かっている感じがします。
家族は渡航先で生姜が手に入るかと事務局にメールを送った次第です。
何の事務局かってわかっているのでしょうかね><?
そして、‘うなぎ’というお品がチラリと見えますが、これもこのお店なら上品であり、一枚ドッカァーンのかば焼きではないのでしょう。
和の真髄を究めるお食事、素敵ですね。
このブログを拝読し、改めて、食事(メニュー)と演奏・音楽、切っても切り離せない何かがあると思いました。
by ake_i (2008-07-28 13:59)
メニューの一部をご紹介します。ウナギの白焼きが米茄子の上にちょこんと乗っかっている。オードブルに魚の白身やオクラとかに混じってフォアグラがほんの一切れ(!)を冷たい寒天で固めたもの、アワビのしゃぶしゃぶとか、材料それ自体は案外普通のものですが、その取り合わせが奇想天外、この世界は、もっと保守的な日本料理かと思っていたら、音楽にたとえると、たとえが適当かどうかわからないけど、お琴でジョン・ケージを弾く、みたいなところがあって、それが意外とよくマッチしている急進的和風料理ではありました。和食定番のいかにも立派に見えるエビ天、茶碗蒸しなどというお馴染みのものはいっさいでてこない。最後にアワビのしゃぶしゃぶででただし汁にそうめん、といった趣向でした。
by klaviermusik-koba (2008-07-28 17:29)