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フーガの技法(9) [ピアノ音楽]

 夏休みも終わったから,鉄ネタも少しお休みして本業にもどる。

 一人では演奏の困難な「フーガの技法」には連弾版、2台ピアノ版もある。その方がはるかに楽であることは私もわかっており、極度に難しい曲はここまで一人で苦労してやる必要があるか、と自分でも思うが、「フーガの技法」は明らかに普通の曲とは違う。どんなに難しくても、一人で全部の声部を弾き、曲全体を自分一人のコントロール下において、はじめて見えてくることが大変多いからである。1曲に何ヶ月かかろうと、一人でやってみる価値がある、と思うからこそそうしている。

 もうとりかかって1年半以上がたつが、いまだに全貌が見えてきた、とは言いがたい。私は曲の分析マニアのようにみられることもあるが決してそうではない。通常の演奏の時はなにもしないが、曲の理解の難しいとき、もしくはあまりにやさしすぎて誰にも自明のように見えるとき、分析を試みる。

 フーガの技法の11番、この曲については前にも触れたが、やはりこの抽象的で理解に困難な音楽は直感だけに頼るのは無理がある。きちんと説明するにはブログのような、限られた場所では限界があるが、自分で考える課程をここで逐次記してみたい。誤りもあるかも知れないことをあらかじめお断りしておく。

 これは厳格な3重フーガである。第1のテーマは基本主題のヴァリアンテ、第2のテーマは、すでに8番の冒頭テーマに使われたものの反行形、そして第3のテーマがBACHの音をふくむ新しい主題。BACHという音列は基本的に半音階的である。それを考えると曲が進行とともにだんだん半音階的複雑さをましていく理由がわかる。曲は184小節からなっており、BACHの音をふくむ第3テーマは曲の約半分にあたる90小節にあらわれる。おそらくこれはバッハによる周到な構成力によるものだろうが、BACHという音型は実はここではじめてあらわれるのではない。第2のテーマが現れてから、しばらくして聞き手にはほとんど分からない形でBACHが出現する。その第1回目が40小節のアルト。曲の後半になると、この逆行の音型、すなわちHーCーAーBという音型も含め、曲全体で14回現れることになる。この14,という数字はアルファベットのAを1,Bを2,というふうに数字で置き換えると、B+A+C+Hすなわち2+1+3+8=14となる。

 この14という数字は平均率第1番のフーガの主題の音の数で、バッハを象徴する数字であることは、誰もが指摘することでよく知られている。で、このBACH音型は、はじめはまばらに、そして徐々に回数が増え、曲の終わり頃には集中的に用いられる。この曲の構成の面白さの一端がおわかり頂けたであろうか。今日はとりあえずここまで・・・。



 
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コメント 4

婆

またまた来てみたのですが、
少し前の記事を読んで、私はもしかして大先生のブログに恐れ多くもコメントしてしまったかな・・・と緊張しております。
因みに私は、小さな子にピアノを教えている者だったりします。。。

恥ずかしながら、バッハはインベンションの一声ずつですら自信を持って教えられずにいます。
以前ここでも名前があがっていた小林義武さんの著書数冊も読んでみたのですが、音楽修辞学やバッハ本人が記した指番号のことを考えると、バロック時代の音階的なフレーズは本当になめらかに弾いていいのかな・・・とか色んなことが心配になってしまって。。。
少し前にヴェルクマイスターⅢとかいう調律で3声の9番を聴いたら違う曲のように素敵で、自分で弾くときには、言い訳のように、調性の性格が表現できればいい・・・なんて思って弾いてみています。
でも、生徒さんのコンクールなどでバッハが課題だと、二の足を踏んでしまいます。

厚かましくも、悩み事を書いてみました。。。良かったらご指導お願い致します。
by 婆 (2008-09-01 02:12) 

klaviermusik-koba

私の所にも一人小学生の生徒がいます。全くバッハについてはこれから、という生徒にはそれなりの対策がいります。

初歩の生徒のためには、たとえば2声のインヴェンションなどは私は原則的に装飾音の最も少ないバッハが長男フリーデマンの教育に用いた第1稿を参照します。(その通り弾かせるわけではありませんが、バッハがどういう弾き方を許容していたかの参考にはなります)装飾音の多いいわゆる原典版はあまり用いません。生徒の持っている楽譜は春秋社だったり、原典版だったりさまざまですがあまりうるさいことはいいません。その生徒の能力にあった適度の装飾音とテンポ、音の出し方、に全力を注ぎます。この種の教育的な曲に複数のバッハ自身、もしくはバッハ自身が関与した版があることは、いろいろなやり方をバッハ自身が認めている、と考えてもいいのでしょう。まして、現代のピアノを用いるなら、この現代の楽器にあったやり方があって当然です。

バッハにはいろいろの解釈が可能で、これだけが絶対正しい、というものはない、と思っています。それだけに、生徒の能力を見極めた上で、その時点で最上のことをやるしかない、と思います。


by klaviermusik-koba (2008-09-01 09:02) 

婆

ありがとうございます!
第1稿、調べてみます!音階系・・・分散和音系・・・と並んでいる楽譜かな???
バッハを聴くのは本当に大好きなのに、教えるのは本当に怖くて・・・。
生徒さんに伝染しないようにしなきゃ!
生徒さんにあった方法で最上のことを・・・ですね!頑張ってみます。
ありがとうございました!
by 婆 (2008-09-01 22:42) 

klaviermusik-koba

ご健闘を祈ります!
by klaviermusik-koba (2008-09-02 12:45) 

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