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コストとドイツ文化の奥深さ [鉄道全般]

 つぶれかかったメルクリンばかりではない。瀬崎明日香さんとリハーサルをしていてあきれたのである。今度はバッハのシャコンヌにシューマンがピアノ伴奏をつけたのをプログラムに入れることにした。だいたいこれ自体、滅多に演奏されるものではない。しかもシューマンは無伴奏ヴァイオリンソナタの全曲にピアノ伴奏をつけているのである。その全集を彼女はもっている。

 バッハのシャコンヌ1曲だけですらピアノ伴奏付きなど滅多に演奏されない、一種のゲテモノだが(実際やってみると実に素晴らしい伴奏がついていて、これだけでも芸術的価値は高い)全曲に伴奏をつけたシューマンもシューマンだが、こんなマイナーなものを出版し続けているペータース社もこれまたただものでない。こんな楽譜を買うヴァイオリニストがいるとは思えないし、ピアニストもやはりごく一部の物好きしか買わないだろう。
 
 ほとんど誰も買わないような楽譜も今日にいたるまでずっと出版を続けている。そればかりではなく、やはりそれほど売れないと思われるテレマン全集とか、レーガー全集とか、芸術的価値はともかく、絶対商業ベースになど乗らないことはわかっていても出版し続けている、そしてその出版社がつぶれないでいることもまた驚異的なことなのだ。

 楽譜にしてそうだから、哲学書とか、文学とか、およそ経済学の観点から見たら馬鹿馬鹿しい限りのことをドイツ人はとても大切にしているのだ。これはもう、こわいほどである。多分ドイツだけでなく、イギリス、フランス、イタリアなどヨーロッパ諸国もそうであろう。経済一辺倒でものを考えている日本を含め、新興諸国など西洋文化のいいとこ取りだけをしている国に、経済的に効率の悪いヨーロッパ諸国がかなうわけがないのである。メルクリン、マックス・レーガー全集、これこそドイツ文化の真骨頂であり、ほかのどこの国もかなわない文化の奥深さと思う。
 
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seidoh

klaviermusik-koba様、こんばんは。ご無沙汰しております。

>西洋文化のいいとこ取りだけをしている国に、経済的に効率の悪いヨーロッパ諸国がかなうわけがないのである

仰る通りと思いますが、あえて逆説的に表現すれば「いいとこ取りだけをしている国が、・・・ヨーロッパ諸国にかなうわけがない」となるでしょうか。経済効率といえば聞こえはいいものの、所詮は相対的で移ろい易い概念です。対して欧州の、とりわけドイツ系諸国の、実態として存在する事物こそを文化として守り伝える姿勢は、まさに執念ともいえる迫力さえ感じられ、我が国など同じ土俵に立つことすら不可能な気がします(あくまでも両者の違いであり、どちらが良い悪いという意味ではありませんが)。
私は特に「街づくり」に関する彼我の差にがく然とし、その思いを深くした次第です。
by seidoh (2010-12-27 22:40) 

イトバク

レーガーの素晴らしさは、演奏者が身をすり減らして努力すれば、必ず一部の人達をひっつかまえると思うのですが、習得するのにどの曲も時間がかかり過ぎる・・・。
by イトバク (2010-12-28 08:41) 

klaviermusik-koba

seidohさん

お久しぶりです。私の書き方が悪かったために誤解を与えたかも知れませんが真意はseidohさんのおっしゃるとおりです。そもそも文化がちがうのですから同じ土俵に立つこと自体、無理があるのですね。

「街作り」に関してはヨーロッパばかりでなく中東諸国と比較してさえ、日本の大都会は絶望的にきたないと私も思いますが、これも外国からきた人から見れば、東京のゴタゴタした飲屋街もそれなりに魅力的にうつるみたいですから、まあ仕方がないですねえ、というしかありません。

イトバクさん

レーガーはたしかに演奏も困難、理解も容易ではない。だから楽譜も売れない。売れなくても価値のあるものは守り続ける。
それでもドイツはなおかつあれだけの経済力を保っている。このバランス感覚、素晴らしいと思います。
by klaviermusik-koba (2010-12-28 09:16) 

Akira

Max Regerという名前を見て、コメントしました。私は音楽のプロではもちろんないですし、単なる音楽好きの1人でしかないので、彼の名前を知ったのは、私がWeiden i.d.Opf.に引っ越して来てからのことです。ここは人口約4万人、鉄道もHof - Muenchen沿線にありますが、ICEも通らず、未だに非電化の亜幹線上にあります。この小さな町の自慢の一つが、彼の生誕地であることです。彼の生家も中心街にありますし、私達もクリスマスには、彼のクリスマス曲をピアノで演奏したり聴いたりしていました。ご近所にお呼ばれされたときなどキーボード持参で妻がこの曲を弾くと喜ばれます。

この小さな北バイエルンの街も、極めてドイツ的な佇まいで私達家族が縁あって住んだのですが、文化の成熟度には遥かに進んでいると感じました。個人的には「ドイツ人は」というような画一的な見方をしたくはないのですが、これはやはり国民性なのでしょうね。

そう、ご長男が一度Weidenに遊びに来られたので街の様子は彼が良くご存知だと思います。
by Akira (2010-12-30 09:56) 

klaviermusik-koba

私はWeidenには行ったことはないのですが、おっしゃるとおり、Weidenはレーガーの父親の時代から住んでいたようです。マックスが生まれたのはブラントという町だそうですが、どこにあるのか私もわかりません。いずれにせよ、この大音楽家のことを、町の人たちが誇りにしているであろうことは容易に察せられます。

中にはわかりやすい曲もあるのですが、概して難解で演奏も大変なので日本ではコンサートのプログラムにはあまり頻繁にはのりません。彼の曲の主なものは私もミュンヘンで聞いたくらいです。長くミュンヘンで活動をしていたこともあって、とくにミュンヘンでは接する機会が多いと思います。一度いってみたいものですね。
by klaviermusik-koba (2010-12-30 18:51) 

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