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ピアニストの脳を科学する [Literature]

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 興味深い本が出された。「超絶技巧のメカニズム」という副題がついていて、脳科学者であり、ピアニストを志したこともあるという古屋晋一氏の著書(春秋社)で人気が出ていて出版元にも品切れ状態、という。

 超絶技巧の曲を易々と弾きこなすピアニスト、あの複雑な楽譜を暗譜して演奏する能力、はじめての曲をすぐ楽譜から理解して演奏する能力はどのようにして獲得されるか、を脳科学者の観点からアプローチしたもので、ピアニストとして一応のレベルに達した人ならほとんどが「どうして?」と疑問すら抱いたことのない不思議な能力の科学的解明を試みている。

 中でも特に私の興味をひいたのは、多くのピアニストが「腱鞘炎」などに悩まされて休業を余儀なくされる「職業病」についても科学的に踏み込んだアプローチがなされていて、

(1)腱鞘炎
(2)手根幹症候群
(3)フォーカル・ジストニア

という主に3つの職業病についての記述は、ピアニスト、ピアノ教師にとっても非常に参考になる部分で、レオン・フライシャーやミシェル・ベロフなどもこの(3)の範疇にはいるのだという。「フォーカル・ジストニア」などという名前は聞いたことすらなかったので、これはよく吟味する必要があると思った。さらに、このようなピアニストの宿命ともいうべき職業病は、クラシックの演奏家のみに見られる現象でジャズピアニストにはほとんど見あたらない、というのも興味深い。たぶんクラシックのピアニストはコンクールでもコンサートでも楽譜通りに完璧に間違えないように弾くのがプレッシャーとして脳細胞に働いている結果ではないか、というくだりはなるほど、と納得させられる。 ピアニストの腱鞘炎をはじめとする職業病は指や手という器質に由来するものではなく、脳神経科学の量域に属する、という指摘には目から鱗が落ちる思いである。一読をおすすめする。

 ただし、「ピアノを弾く能力を維持、向上させるには3時間45分以上の毎日の練習量を必要とする」というくだりは、「個人差が非常に大きい」と考えた方がいい。
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K.

フォーカルジストニアは私,4,5年前に、友人から教わって以来
出来る限り講座や学会などに出席しています。

学会に関しては、医者から見た点と演奏家(我々)から見た点で、
しっくりはまりきらないところもあるな、という難しさも痛感しましたが、フランスやドイツからの先生方の講座を拝聴していると、とても無視できない症状ですし、また一方で(特にフランス)研究が進んでいる国では、ここまで解決できるのか、とも学びました。
カウンセリングを聴講したり通訳させていただいたこともありますが、演奏する本質を見直させてくれるので、症状のない人にも勉強になります。

この本、買いたいんですがなかなか見つからず(タイミング悪い?)

お誕生日おめでとうございます!
by K. (2012-02-14 07:55) 

klaviermusik-koba

フォーカルジストニオアなんてよく知っていますね!知っているだけでなく講座や学会に行くところがすごい。いつか私に講義してください。

本屋を何軒かいったけれど見つからないですね。amazonにでも注文するしかないかも。


by klaviermusik-koba (2012-02-14 18:13) 

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