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平均律クラヴィア曲集 [ピアノ音楽]

私は楽曲分析マニアではない。だが必要な時だけ止むを得ずやる。ただ一旦やるとなると徹底してやるのである。中途半端な分析からは曲の本質はなにも見えてこない。昨日、ある学生が第一集の24番のフーガ、あまりにひどい楽譜の読み違いをやっていたので私も呆れた。普通の先生なら「もっと楽譜を正確に読みなさい」というだけでお手上げになる。この曲集で最も長大で複雑な曲だから学生が読み違えるのは、不注意もあるが、調性の変動と曲の骨組みが全くわかっていないからだ、と私は考えた。そこで丸一時間、私がピアノに座り、自分でピアノを弾きながら、必要な瞬間瞬間その都度ひく手を止めるから、その箇所の調性を答えるように、とやらせてみると案外学生はわかり、できるのである。

この作業をやりながら、私もきちんと把握し切れていないことに気がつき、帰宅してからこの曲の分析に没頭した。そうしてみると、この曲は半音階が多くて一見非常に複雑に見えるが、実は普通の他のフーガとそれほど大筋変わるところはなく、他の幾つかの類似のフーガと同じ、大きく3部に分けられる。この曲が特別複雑にみえる原因はテーマにある。一般にフーガのテーマは通常同一の調性内で作られるか、テーマそのものが属調に転調するように作られているか、の二種類がある。ところがこのテーマは属調に転調の途中に下属調に少し触れる。ここがこの曲をわかりにくくしている。もう一つの特徴は、この3小節のテーマの中に、12の半音がすべて含まれているために、ぼんやり聞いていると調性がないように見えることがある。ドデカフォニーの始まりである。調性は崩れつつあるのはなにもワーグナーやリストを待つまでもないのだ。

詳細の分析はここでやるつもりもないが、やるにつれてだんだん自分の頭が整理されてくるのは爽快なものである。ちなみに曲の中で使われる正規のテーマの数は14回。第一番ハ長調フーガのテーマの音符の数が14個。これは偶然の一致とは思えない。第一集を締めくくるにあたってバッハは自分の名前の象徴である14という数を意識したものであろう。
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コメント 2

大澤徹訓

バッハのすごいところは、フーガの基本構造から敷衍していく、その多様性が他の作曲家達の追随を許さない、と言うことですね。
by 大澤徹訓 (2015-12-11 23:10) 

klaviermusik-koba

その通りだと思います。これほど当たり前のことを書いているだけなのになぜ当たり前の音楽以上に人に感動をもたらすのか、やればやるほど謎は深まるばかりです。
by klaviermusik-koba (2015-12-12 15:40) 

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