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「ラインゴルト」の現代的意味 [音楽全般]

 ワーグナーの楽劇「ラインゴルト」。いろいろ考えさせられる現代的意味を持った楽劇である。音楽も素晴らしいがワーグナーの思想家としての面もこれまたただ者でない。

 ライン川の底に眠っている金は川の底にあればただの金。しかしこれから指輪をつくり、それを所有するものは世界のあらゆる財宝と権力を得る。但しそれと引き替えに愛をあきらめなくてはならない。地下のこびとの国から来たアルベリヒはそれをかっぱらい、指輪をつくる。

 天にすむ神々の長、ヴォータンは巨人につくらせた巨大な城、ワルハラ城の代償をアルベリヒから指輪を奪って、巨人に代償として与える。指輪を奪われたアルベリヒは怒って指輪に呪いをかける。それ以後、この指輪を所有するものはことごとく非業の死を遂げることになり、最後の「神々の黄昏」の終幕は、指輪を代償としてつくられたワルハラ城とともにヴォータンも滅びることになる。

 「金さえあればどんなことでも出来る」こう考えている人はぜひこの楽劇を知るべきだろう。荒唐無稽なおとぎ話、といってしまえばそれまでだが、昨今の日本、いや、世界の拝金主義的傾向のひどさをみるにつけても、ワーグナーの楽劇がにわかに現代的意味を帯びる。「ホリエモン」の逮捕劇はこの楽劇でいえばまだせいぜい序幕である「ラインゴルト」の中盤あたりにすぎないのかもしれない。注意深く聞く人は、「指輪」の気味の悪いライトモティーフ(指導動機)と荘厳なワルハラ城のライトモティーフがまったく同じモティーフからできている事を見てとるだろう。
「指輪を所有するものは世界の財宝と権力を得る。その代償に愛をあきらめなければならない」
愛などどうでもいいから、無限の財宝と権力を得たい。まさにいまの世界そのものではないか。ワーグナーの「ニーベルンクの指輪」4部作。今日的であるが故に、人に訴えかける力はおおきい。

 実はこのワーグナーのライトモティーフのアイディアは何を隠そう、ベートーヴェンの主題の循環作法から範をとっているに違いないと私はみている。「ハンマークラヴィア」ソナタを知る面白さもそこにもある。


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コメント 3

makkie60

今から30年前、BONN郊外にWAGNER所縁の博物館があったように思います。BONN-BEUERUと謂ったかな?よーく考えると第二次世界大戦の映画”戦場に架ける橋”の舞台もも此の辺りかも知れません。ライン川なんて30年前には毎日MusikHOCHSCHULEに行く時”マァ、汚ねー川じゃ”って思ったけれど離れてみるとヤハリ凄ーい河川なんだと感じています。VaterRHEIN,MutterMOSELなんて好く云ったモンです。26日にFUSSBALLのJAPAN Mannscaftが合宿地BONNに向かいます。WMの御蔭で7月末まで、航空運賃とドイツ全土のホテル代はベラボーに高くなったって、向こうのオケの仲間が喚いていました。里帰りは早くって8月中旬以後になりそうな由。交通費って大きい問題ですよね・・・・店子まっき―
by makkie60 (2006-05-24 18:46) 

大澤徹訓

ご無沙汰しております。
また一度、先生のお宅にお邪魔して、ベートーヴェンの楽章構成や主題操作の扱いが、どのようにヴァーグナーに影響を与えて行ったのか、お話ししたいと思います。

既に循環的な動機の扱いは、ピアノソナタ第1番にも見られます。
ベートーヴェンの素晴らしいところは、この主題操作と楽章構成の関係、何をこの楽章でおこない、その結果がどう後に繋がるのか、その可能性と多様性を突き詰めたところにあると考えています。
人間原理的な精神性を導入したところも面白いところですが、個人的にはまず、後期の弦楽四重奏曲に至るベートーヴェンの様々な技法・発想の試行錯誤が面白いところです。
by 大澤徹訓 (2006-05-27 22:50) 

klaviermusik-koba

発生動機の循環、という考えは一時期私もベートーヴェンの初期のソナタではまり、興味を持った(そもそもそのヒントを与えてくれたのはまだ私が20代だった頃の諸井誠さんなのですが)2行目以下の考えは私はまったく同感です。ベートーヴェン以前にも動機の循環という考えは無意識のうちにあった(JS.BACH) とも思うのですがそのあたりはまだよく勉強していませんが演奏家として直感的に感じることはよくあります。

私は作曲家や理論家としてそのへんのところ系統的に勉強していませんから専門家からみると変なところもあると思います。一度そんな話もしてみたいです。美紀さんとご一緒にお越しください。夏休みなら南相木でゆっくり話が出来ますがあそこには楽譜がほとんどない。あるのは模型電車だけ。
by klaviermusik-koba (2006-05-28 09:36) 

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