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ラ・チ・ダレムはなぜ失敗に終わったか [ショパン]

 変奏曲の傑作はおおむね、凡庸なメロディーから生まれるようである。ショパンのノクターンのような美しいメロディからは、変奏曲の傑作は書かれていない。それに反し、パガニーニのキャプリスのようなメロディとしては比較的凡庸なテーマで多くの変奏曲の傑作が書かれていることは興味深い。ショパンの「ラ・チ・ダレム」の変奏曲が失敗作に終わったのは、モーツァルトのメロディがあまりに美しすぎ、若いショパンがモーツァルトの傑作に負けたのだ。

 ショパンの変奏曲(と作曲家は言っていないが)の最大の傑作は「子守歌」であろう。これはほとんどメチャクチャなショパンの一つのカケ、といってもいい。トニカ・ドミナントというなんの変哲もないオスティナート上に4小節のメロディを書き、それに変奏とコーダをつけただけのものだが、作曲の構造物としては特にみるべき面白さがあるわけでもないのに、この信じがたい美しさに仕上がっているのはほとんど奇蹟といえる。メロディスト・ショパン以外でこのような奇蹟の行える作曲家はモーツァルトをのぞけば皆無、といっていいであろう。

 もう一つの最大のカケが傑作となっている例はラヴェルの「ボレロ」。変奏をしない変奏。ただ、オーケストレーションの巧緻さだけがその成功を決定的なものにした。メロディとオーケストレーション。それにもう一つ付け加えるなら、ベートーヴェンのソナタ、Op.109とOp,111の終楽章。これは、「人間の精神的な深さ」。これだけが決定的な要素であり、このメロディは一つ間違えば駄作に終わる危険性もあった。

 共通していえるのは、実質は変奏曲でありながら、どの作曲家も「変奏曲」と名付けていないところにある。

 本物の「変奏曲」の傑作についてはまたいづれの機会に。
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