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ミツキェーヴィッチ「バラードとロマンス」 [Literature]

ショパンのバラードに関してこれまでしばしばミツキェーヴィッチの詩に言及され、あたかもショパンがミツキェーヴィッチの詩に基づき、あるいはミツキェーヴィッチの詩から霊感を得たかのように、語られてきた。本書はそれを根底からくつがえすもので「バラード」も「ロマンス」もショパンの音楽に影響を与えるほど、ショパンは「文学的」なものに興味を持たなかったことを知る格好の書。音楽作品の題名によく使われる「バラード」も「ロマンス」ももとはといえば、詩のジャンルから発したものであることと、本来のバラード、ロマンスとはどういうものであるかを探る上で多いに参考になる。同時に、ミツキェーヴィッチのバラードの題材が民話を基にした詩であること、詩の形式としてバラードとロマンスの間にはっきりした境界がないこともわかる。

どちらもよく音楽のタイトルに使われるが、その本来の意味を知っておく必要はある。ロマンスは小田急のロマンスカーや誰と誰のロマンス、といった日本で使われている意味とは全く違う。ロマンチックという日本語(?)とロマンティッシュというドイツ語とは意味もニュアンスも全く異なることからも察せられよう。関口時正氏の翻訳により、身近に本来のポーランドの代表的バラードに接することができる。もともと民間で語られた伝説からミツキェーヴィッチによって芸術の分野にまで高められた、という意味では、民間で歌われていた素朴な音楽がショパンによって芸術の域に高められたマズルカと共通するものはある。

バラードもロマンスもフランスより早くドイツで使われていた詩の用語のようだが、ショパンは「ロマンス」は第一コンチェルトの第二楽章を除いて一曲も書いていない。一方、シューマンは「ロマンス」のタイトルで多くの曲を作曲しているが、このタイトルもそういう文脈で捉えられるべきものであろう。
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