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ホームカミングディ(2) [音楽全般]

トリに演奏された、ヘンデルのメサイアのいわゆる「ハレルヤ・コーラス」にはいろいろ考えさせられた。日本語訳で、しかもヘンデルの英語の内容とは全く無関係の二つの歌詞によって、同じ曲が二度演奏されたのである。演奏の出来についてはここでは触れない。二つの歌詞のおおよその内容は以下の通り。

一つは曰く: 「神武東征」。神武天皇の東征をほめたたえる内容である。
二つ目は曰く; 「 寄藤祝」。皇后陛下の行啓に際して作られた歌詞。いずれも鳥居忱による作歌。

最初のものは当時、卒業式に毎年歌われたようである。プログラムの解説には、当時は原語で歌う、という習慣がなかったから、日本語で作った歌詞を当てはめるのが普通だった、とある。なにも知らないでこの二つの歌詞を読むと噴飯もの以外の何物でもないが、当時の音楽学校の置かれた状況を考え合わせると納得は行く。音楽取り調べ掛から東京音楽学校にはなったものの、国策で何度か潰されそうになっているのである。そこでなんとか国策にそうよう、音楽の中にも国粋主義的な内容を含ませ、音楽の必要不可欠なことを国に知ってもらおう、という生き残りに必死のさまが私には読み取れる。美術学部でそういうことを聞かれないのは、美術学部は岡倉天心以来、日本絵画を基本としてスタートしたのと対照的に、音楽学部は西洋の音楽を出発点としているところに根本的な違いがある。

現在の芸大は当時も、それ以降も、決して順調な道ばかり歩んだのではない。先輩の大きな努力と犠牲の上に今が成り立っていることを忘れてはなるまい。音楽学部が二度と国策に利用されないことを切に願う。何かにつけ考えさせられることの多い、稀に見る有意義な取り組みであったと思う。
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