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阪急電車 [映画]

 札幌駅ビルの最上階にシネマセンターがあり、最近少し自由な時間ができるとちょっとのぞいてみる習慣がついてきた。新聞の朝刊で大体の出し物は見当をつけていくのだが,こちらの都合の空き時間にいくわけだからそういつも面白いものにぶつかるわけではない。

「阪急電車」というタイトルにつられて、入ってみた。まあ感じからして「鉄」向きのものではないことは予想はついたが内容は期待はずれ。阪急宝塚から西宮北口までの電車(急行電車のない区間として目のつけどころは悪くない)の往復の間におこる様々なドラマを描いたものだが、電車のことはまあどうでもいいとしても中身はいかにも浅い。この沿線には神戸女学院へいっていた頃よく通ったから懐かしい。ドラマの内容と阪急電車はさほど不釣り合いなわけではない。舞台を小田急線にするよりはマシであろう。
3000系のマルーンの美しい電車がたっぷり見られただけでもよしとするか。(札幌)

アレクサンドリア(札幌日記) [映画]

 大学は今日はオフ。夕方までピアノを練習したり本を読んで過ごしたりしたが、映画にいって見る気になった。

 札幌駅ピルの中にあるSCF(札幌シネマフロンティア)で月曜日のせいか空いていて「アレクサンドリア」(原題はアゴラ)は私をふくめ観客は6名。この映画は4世紀のエジプトを舞台にしたもので、ローマのキリスト教徒がエジプトを征圧したところからはじまる。ヒュパティアというとびきりの美人で天才的女性科学者が学生の人気を集めていた。講義をしている場所が、かつてイエスがしていたように広場(アゴラ)で、この映画の題名はそこからとられたのだろう。この女性が地球が太陽を回っている、という地動説を考えだしたためにキリスト教徒からは「魔女」(魔女という言葉は中世にふさわしいが当時あったのかどうかもわからない)とされ、彼女を慕っていた弟子たちは逃げ去り、ひとり,裸にされ、石打の刑にあって殺される,というストーリー。

 4世紀にすでに本当に地動説を考えた人がいたかどうかは私は知らないが、舞台がエジプトならありそうな気もする。事実とすればこれ自体驚きであるが。見終わった感想は、なにやら、イエスがユダヤ教徒たちから危険人物視されて殺され、弟子たちは逃げさる、という物語と私の頭の中でイメージが重なる。予想していたよりも考えさせられることの多い内容のある映画だった。

 入場券と一緒にもらったパンフで目に留まったのは、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場で収録されたオペラ上映の予告。なかでもグルックの「タウリスのイフィゲニア」。何かとよく引き合いに出され、アリアなどの編曲ものも多いが、原曲は滅多に見る機会のないものだけに映画でもいいから見ておきたい。(札幌)

武士の家計簿 [映画]

 面白い映画を見た。この映画の主人公は猪山直之(いのやま・なおゆき)という幕末の加賀藩の御算用者の物語である。この直之の娘、お辰が嫁いだ沢崎寛猛、そこでもうけた子供たちの一人がどうやら私のピアノ恩師である沢崎秋、後の井口秋子先生、ということのようなのだ。つまり秋子先生は猪山家の直系の子孫ということになる。

 加賀藩の財務係の子孫がピアニスト、ピアノの名教師として名を残した、というのも物語にすればそれはそれで面白かろうと思うが、ただしこれはあまり一般受けはしないであろう。それでも井口先生の関連の方々必見の映画、とはいえる。原作者の磯田道史が当時の資料を詳細に読み込み、新潮新書として出版されたのを映画化したものである。

 武士がそろばんをはじく、というのは当時侍の中でもでも一段低く見られたのだが、そのなかでも猪山家は代々貧乏侍であった。その家系の中で算術に抜群の才能を示した猪山直之が借金がかさみ、没落した猪山家の全財産と武士の命である刀にいたるまですべて売り払って財政再建をなしとげ、なおかつ、加賀藩をささえたサクセスストーリーである。新書版には明治時代に移ってからのことも少しではあるが触れられていて、弟子としてはそのあたりも興味深い。

 井口秋子先生関連でなくても、今の莫大な借金でつぶれそうな日本国家の為政者にも見てもらいたいくらいだが、猪山家、加賀藩とはスケールが違う世界第2の財政規模のいまの日本の財政再建にはあまり参考にはならないかも知れない。(新宿ピカデリーで上映中)

カチンの森 [映画]

 暮れから正月3か日にかけてのTVは文字通り総白痴化番組だらけで見るべきものはなにもないか、といえばそうでもない。NHK教育番組の特集、「カチンの森」のポーランドの映画監督の巨匠、アンジェイ・ワイダが「カチンの森」に行き着くまでの社会主義国ゆえの反骨精神、それも周到な考えのもとにつくられ、当局のきびしい検閲をなんとかだましながらの映画作りの物語は実に見応えがあった。

 「カチンの森」はポーランド人にとってアウシュヴィッツの事件と同じような重要性を持つ、ソ連占領下におけるポーランド将校の虐殺事件としておぞましいできごとである。この事件は50年も封印されたままで、社会主義勢力の弱まりと共に明らかになってきた事件として知られるようになった。

 最初の反ソ映画、「地下水道」にはじまり、最後の目標である「カチンの森」にいたるまでの権力との闘争である。アンジェイがここまで「カチン」にこだわった理由は、彼がまだ十数才のころ、父親が50年前にポーランド軍の中尉として従軍していたのが突如行方が分からなくなったことに端を発する。後にソ連軍の虐殺によることが明らかになったが、ソ連はいよいよ証拠を突きつけられるまで、これはナチスドイツの仕業だ、とウソをつき通した。

 もっとも感動的だったのはアンジェイがこれはおそらく永久にあり得ないこと、と思っていたモスクワでの上映が実現し、そのおりのできごと。ロシア人の観客の一人が立ち上がり、「この素晴らしいポーランド人将校のために我々は黙祷を捧げようではないか」といいだし、観客全員がそれに応じた、という場面である。アンジェイは父親の名誉を映画監督という生涯の仕事を通じて回復したのだ。私も涙を禁じ得なかった。

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